iPS細胞ブームに飛びつく前に知っておくべき5つのこと
昨今、巷を賑わせているiPS細胞ブーム。科学ニュースがお昼のワイドショーでここまで取り上げられたのも、田中耕一氏のノーベル賞受賞以来だと思う。まぁマスコミの作るブームというのは大したことはないのだが、そういった上辺だけのブームも含めて、何かとてつもない「夢の」技術だとか、「魔法の」細胞だとか、抽象的な言葉で報じられ、期待や不安を含めた様々な誤解を生んでいるような気がする。
イギリスの科学誌Natureに掲載された記事では、科学誌らしく、iPS細胞はどういうものか、iPS細胞研究は実際のところ現時点でどの段階にあるのか、といったことを冷静に5つの問題を提起してそれがそれが事実かどうかを分析している。
以下、()内の英文はNatureからの引用
1. 誰にでも作れる。(Anyone can do it) - ほぼ事実 (Fact (mostly))
誰にでも、というと語弊があるが、技術的に特殊な装置が必要だとか神業のようなテクニックが必要だと言うことはない。細胞培養ができて遺伝子導入ができれば一応誰でもできる。
2. 誰でも自分自身のiPS細胞をもてる。(Everyone can have their own custom-tailored
cells) - 金持ちでなければ無理(Fiction (unless you're rich))
やはり気になるのは、自分の細胞由来のiPS細胞を簡単に持つことができるかどうかとうことだが、まだ医療用として用いるには克服すべき課題も多くあるし、長いスパンで研究しないと分からない潜在的なリスク(ガン化)もあるかもしれない。さらに、個人のテーラーメイドのiPS細胞を供給するには莫大なお金がかかる。そうはいっても、研究は日々進歩しているのでいつかは可能かもしれない。現時点でも、研究所を運営することができるくらいのお金を持っていれば可能であるかもしれない。
3. iPS細胞を用いた治療法が開発中である(The cures are on their way) - まだまだこれから(Too soon to tell)
iPS細胞は基本的にどのような組織の細胞へも分化することができるので、再生医療への応用が期待されているが、現段階では臨床段階へというところにはいっていない。が、動物実験段階ではぼちぼち成果が出始めている。
4. ES細胞とiPS細胞は同じだ(Embryonic stem cells are the same as iPS cells) -
現時点では一応事実(Fact (so far, anyway))
同じだ、というよりは現段階で両者の違いがまだわからない。遺伝子の発現レベルや分化能などで両者の差異はない。
5. iPS細胞に倫理的問題は生じない(iPS cells have no ethical issues) -
やりたいことよっては問題あり(Fiction(depends on what you want to do))
ES細胞を破壊するという倫理的に問題は解消したのかもしれないが、当然別の問題が浮上してくる。わかりやすいところでは、iPS細胞から作った生殖細胞(精子や卵子)を受精させることは倫理的にどうなのかといったこと。
----
Nature 452, 406-408 (2008) | doi:10.1038/452406a
Stem cells: 5 things to know before jumping on the iPS bandwagon
0 件のコメント:
コメントを投稿